いよいよ今年も残すところ5時間を切ろうとしています。
2011年、震災という未曽有という言葉さえ陳腐に感じるような事態が大きくのしかかり、そして現在も事態の収束は見られないという不透明で不安な状況に置かれています。
そんな中でも、展覧会が開催されそれを楽しむことができたということに、ただただ感謝するばかりです。
僭越ながら、以下「2011年私が観た展覧会ベスト15」を挙げます。分母が多いため、10に絞らず15としました。選ぶにあったて、自分に新しい発見や学びがあったこと、もう1度観たい気持ちが強いことを重視しました。
そして、この記事を最後に暫く「あるYoginiの日常」の更新をお休みさせていただくことにしました。
休載期間は決めておりません。再開があるかどうかも分かりませんが、恐らく長い休載となると思います。
これまで拙い文章と内容で画像もない記事であるにも関わらず、読んでいただいた皆さまに心から御礼申し上げます。
それでは、皆さま良いお年をお迎えください。そして、来年が実り多き1年となりますように!
<2011年 私が観た展覧会ベスト15>第1位 「ジャクソン・ポロック展」 愛知県美術館日本初のポロック回顧展。初期から晩年の作品までポロックの画業を知る上で重要な作品を集めている。これだけの作品を集めた展覧会は今後難しいのではないかと思う。また、個人的にも関心の薄かったアメリカ抽象表現主義作家やそれ以後の作家について考える機会を与えてくれ、視野を広げることとなった。
第2位 「五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」 江戸東京博物館ポロック展を観るまでは、本展のベスト1は揺るがないものと思っていた。空前絶後、100幅全部を一堂に会した展覧会。しかも、会期が震災とぶつかり、開催延期となり一時開催も危ぶまれたが、無事拝見できて本当に良かった。
成田山の巨大掛軸共々圧巻の内容。今後、益々狩野一信研究が進むことを願っている。
第3位 「菊畑茂久馬 戦後/絵画」 福岡市美術館・長崎県美術館 共催本日、漸く感想記事をアップ。初期から現在の新作まで菊畑の戦後の活動を余すところなく展観。あまりにも知らないことばかりで、驚きの連続。新作タブロー≪春風≫と初期作品が頭の中でなかなか結びつかないが、それが面白い。
第4位 「黄檗―OBAKU 京都宇治・萬福寺の名宝と禅の新風」 九州国立博物館今年は九州新幹線が開通し、九州各地で充実した内容の展覧会が頻出した。九博のみの特別展であった本展は、会期中毎日黄檗宗寺院の僧侶が展示会場内で読経をささげ、地元も一致協力していることが伝わってきた。
巨大な仏像、隠元豆の歴史、木魚の秘密などなど、黄檗宗寺院独自の文化を垣間見ることができる素晴らしい内容。
なお、黄檗宗関係の展覧会が日本橋高島屋で1月16日まで開催されているので、足を運びたい。
第5位 「木村武山の芸術」 茨城県天心記念五浦美術館こちらも、過去最大級の日本画家:木村武山の回顧展。木村武山は、これまであまり大規模な展覧会が行われていないので過去最大級というより史上初に近い。元々、武山の華麗な日本画や優しく華やかな仏画に注目していたので、漸くまとめて拝見する機会となった。会場は、震災の被害により休館し館の復旧にあたっていた茨城県天心記念五浦美術館で、再開記念に相応しい内容だった。また、図録のお値段はお値打ちなのに内容がとても濃いというコスパの良さは嬉しかった。
第6位 畠山直哉展 「Natural Stories ナチュラル・ストーリーズ」 東京都写真美術館今年は、名古屋市美の東松照明、国立国際の森山大道など大規模な写真展も各地で開催されたが、やはり畠山直哉のこの展覧会は強く心に残った。自然と人間の営為、そしてはっとするような美しい構図の写真が続く。最後のブラスト連写と横にあった「Bird」シリーズ、そして間にあった震災前後の写真とスライド。私たちが何をすべきかを強く考えさせられた。
第7位 「ジム・ダイン展」 名古屋ボストン美術館版画の多様性を教えてくれたのが、このジム・ダイン展であった。同時期に愛知県内ではレンブラント展(名古屋市美)、棟方志功展(愛知県美)と奇しくも版画に関する展覧会が3つ揃うという稀な状況が発生していた。中で、一番未知なる経験だったのが本展で、初期から最新作まで網羅。版画でなければできないこと、版画の魅力を改めて見せてくれた。
第8位 「小川待子 生まれたての<うつわ>」&「新・陶宣言」 豊田市美術館こちらも、現代陶芸を陶芸、工芸という狭い枠から空間に働きかける一つの手段としての扱いで、陶彫の魅力を伝えてくれる内容だった。谷口吉生の建築と小川の組み合わせは秀逸で、陶表現を使った空間インスタレーションだった。同時開催の常設企画「新・陶宣言」もまた、この延長上にある内容で海外、国内の作家で陶表現に取り組んでいる作家をピックアップしての展観。企画と常設がピタリとはまった好企画。また、高橋節郎館の「朱と金と黒の美術」も同様に工芸でなく近現代美術の版画、オブジェ、彫刻などと一緒に展示することで、漆表現の魅力の再考を促すものだったことも忘れ難い。
第9位 「日本画の前衛」 東京国立近代美術館1938年から1949年第二次世界大戦前後に行われていた日本画の前衛運動を紹介。こんな日本画家たちがいたのか!という驚きの連続。特に、山崎隆が戦場を描いた作品≪戦地の印象≫シリーズにノックアウトされた。
第10位 「メタボリズムの未来都市展」 森美術館過去に観て来た建築展の中でも最大級のボリューム。合わせて各種講演会、シンポジウム、映像上映会など盛りだくさんの
イベントで展示に留まらず広く関係各位の話を聴いたり、記録する貴重な機会だった。また、本展の開催がなければ「メタボリズム」という建築運動さえ知らずに終わっていた。
第11位 「瑛九展」 埼玉県立近代美術館、うらわ美術館同一会場だった宮崎県美で拝見していたら10位以内であったかもしれない回顧展。テーマを決めて章単位で構成。エスペラン語の使用、評論活動、そして有名なフォトコラージュ、そして晩年のほとばしるような絵画の大作。知られざる瑛九が次々と明らかにされ、特に絵画のコーナーはうらわ、埼玉近美各館展示作品をまとめて一度に拝見したかった。
第12位 「南蛮美術の光と影 泰西王侯騎馬図屏風の謎」展 サントリー美術館 サントリー美術館と神戸市立博物館各館所蔵の泰西王侯騎馬図屏風が横並びで一緒に展示された貴重な機会。顔料などの成分分析、X線照射など化学的検証結果とそれについての見解を発表。南蛮美術と言えば、「BIOMBO」展の印象が強いが、本展では屏風に限らず広く南蛮美術についてを展観していた。未見作品が多数あった。
第13位 「ゼロ年代のベルリン ―わたしたちに許された特別な場所の現在」 東京都現代美術館
展覧会初日に行ったので、すべての作品をまだ見ていないが、ベルリン在住のアーティスト作品を映像中心に紹介。マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフ、サイモン・フジワラなどの作品がとても良かった。また彼らのプレゼンを聴くことで作品理解が深まり、水戸芸で消化不良だったマティアス&ミーシャの映像の意図がやっと理解できたのも嬉しい。アンリ・サラの映像もあり、映像は特に充実。映像以外の作品のインパクトにやや欠けるのが残念だった。年明けに再訪したい。
第14位 「瀧口修造とマルセル・デュシャン」 千葉市美術館瀧口修造とマルセル・デュシャンの交流をテーマに両者の作品を300点以上で展観する質量ともに充実した展覧会。
両者の作品はあちこちで見かけるが、2人に交流があったこと、また瀧口を巡る作家たちなど知らないことがまだまだ沢山あって面白かった。こちらも常設の実験工房作品と合わせて連続して楽しめる好企画。
第15位 「春草晩年の探求」 飯田市美術博物館長野県信濃美術館「「菱田春草展-新たなる日本画への挑戦」ともに春草没後100年を記念する回顧展。飯田市美術博物館は春草晩年の作品と琳派作品の関係を焦点に据え、単なる回顧展に留まらない研究成果を見せていた。
ブログ「弐代目・青い日記帳」さんの企画クォーターごとのベスト3で挙げたもの。
第1Q ベスト3
日本画の前衛、シュルレアリスム展、佐藤忠良展
第2Q ベスト3
黄檗@九博、五百羅漢@江戸博、ジム・ダイン@名古屋ボストン美術館
第3Q ベスト3
菊畑茂久馬展@福岡市美&長崎県美、 百獣の楽園@京博、 高島野十郎@石橋、ベストサマーコレクション展@セゾン現美、春草晩年の探求@飯田市美博、ベルリン@都現美。次点:棟方志功@愛知県美、橋口五葉@千葉市美、民都大阪の建築力@大阪歴博、フェルメールのラブレター展
第4Q ベスト3
ポロック展@愛知県美、小川待子/生まれたての<うつわ>@豊田市美、木村武山の芸術@茨木県天心記念五浦美術館
上記に挙げているもの以外で良かったのは、シュルレアリスム展:国立新美術館、「天竺」奈良国立博物館、村山槐多の全貌:岡崎市美術博物館。
現時点で未見なのは、ベン・シャーン展、シャルロット・ペリアン展、「建築、アートがつくりだす新しい環境―これからの“感じ”」展といったところです。
私的に決めている2011年度美術館賞は千葉市美術館、次点に岡崎市美術博物館を挙げたいと思います。
千葉市美術館は1年を通してヒット展覧会を連発、その充実した内容は他の追随を許しません。更に年会費2000円!で企画展は何度でも無料、図録は10%引きと内容共々充実しています。これなら、多少遠くても通いたくなります。
千葉市美術館友の会詳細は
こちら。
また、展覧会につきものの図録ですが、今年はよりサイズのコンパクト化が進んでいるように感じました。
「ぬぐ絵画」展(東近美)、「瀧口修造とマルセル・デュシャン」(千葉市美)、「村山槐多の全貌」(岡崎市美博)、「画像進化論」(栃木県美)などの図録がB5版以下です。図録を保存するスペースに限りもあるため小サイズ化は嬉しい半面、図版が小さくなるのは仕方のない所なのでしょうか。
今年も初訪問した美術館は沢山ありましたが、中でも毛利博物館、山口情報芸術センター(YCAM)、島根県立石見美術館は印象深かったです。特に、YCAMではほぼ1日映画<ファロッキ特集>を観て、学芸員の方によるレクチャーまで拝聴し、展示を観てと楽しめ建築だけでなく楽しむことができました。九州の石橋美術館も高島野十郎展ともども記憶に残っています。
来年は東北地方の美術館と九州の未訪美術館を訪ねられたらと思っています。
長々とお付き合いくださいまして、本当に有難うございました。
今週訪れた五浦、六角堂があった海です。