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「古賀春江の全貌 新しい神話がはじまる。」 神奈川県立近代美術館葉山

kogaharue

神奈川県立近代美術館葉山で開催中の「古賀春江の全貌 新しい神話がはじまる。」展に行って来ました。

約1年前に神奈川近美葉山館での開催を知り、首を長くして待っていた展覧会です。

古賀春江(1895-1933)は、福岡県久留米市の寺院の長男(春江とありますが、男性!)として生まれ、17歳で画家を志して上京し、同時代のヨーロッパ美術に学び、二科会を主として活躍。モダニズムが全盛した時代に38歳で病の末亡くなったが、その短い画業の中で「カメレオンの変貌」と言われるほど、画風を様々に展開させました。同時に文学にも傾倒し、絵画作品の解題詩をはじめとし様々な詩を残しています。
本展は、絵画と詩が古賀春江の中で、どのような関係にあったのかを辿りつつ、油彩画60点、水彩画約60点、スケッチなどの資料約60点でその生涯と芸術を紹介するものです。

タイトル通り、「古賀春江の全貌」を見せて下さったと申し上げて良いでしょう。図録で過去に開催された古賀春江の単独回顧展を調べてみましたが、2001年に石橋美術館とブリヂストン美術館での共催展、1991年~1992年にかけて東京国立近代美術館で「古賀春江-創作のプロセス」展が、更に1986年に2001年と同じく石橋美術館とブリヂストン美術館の共催展、1975年「古賀春江回顧展-生誕80周年記念-」が福岡県文化会館で開催されています。

美術館の規模を考えると、東近美で開催された内容が気になりますが、今回の展覧会の充実ぶりは、今後望めないのではと思えた程です。個人所蔵家、企業、大学など美術館以外からの借り入れ作品も非常に多く出展されていました。作品は基本的に制作年代順となっていました。もちろん、作品リストも用意されています。

以下、展覧会構成と感想です。

第一章 センチメンタルな情調 1912-1920
画家として1912年に上京した古賀は、当時流行していた水彩画を学び始める。資料に「みづゑの画家」大下藤次郎の名を発見しなんだか嬉しくなった。

・≪柳川風景≫1914年 個人蔵
第一章の水彩画中で、もっとも好きな作品。まだ絵を始めたばかりだと思われるが、基本に忠実な画面構成と筆づかい、彩色、情緒あふれる作品。やや硬いと言えば硬いけれど、この時は変に外国かぶれしていない実直な感じを受ける。

・≪自画像≫ 1915-16年 石橋美術館蔵 
後期(10/19~)出展される自画像の方が著名だが、こちらの自画像はまだ短髪で目元だけが後年の春江に似ているし、後期自画像にも共通する所。幾分ふくよかで健康的な感じ。

≪考える女≫1919年(東近美蔵)などの油彩は、印象派風であり、≪竹林≫を描いた水彩は、セザンヌからの影響が強く感じられる。この他、≪房州風景≫1919年・横須賀美術館(六曲一双)の屏風絵を描いているが、のっぺりしてメリハリがない。なぜ、屏風絵を試みたのかが不思議だった。以後屏風絵は登場しない。
むしろ、ノートに書きつけられたインク絵の方がずっと味があった。

なお、解説には古賀は青年時代より北原白秋や竹久夢二に関心があったとされているが、直接的な影響は絵画からは感じなかった。

第二章 喜ばしき船出 1921-1925
1921年に我が子の死産を体験し、制作した≪埋葬が≫1921年二科展で受賞し、一躍注目を浴びる。1920年代の古賀はキュビスムの影響を追求し、前衛グループ「アクション」に参加した。

第一章の印象派風の作品から、突然キュビスムへの転換。古賀春江の絵画を観て行くと、19~20世紀の西洋絵画の歴史を追っかけているようだ。

古賀春江のキュビスム風作品は私の好みではない。むしろ≪林檎≫制作年未詳の方が好み。しかし、この時代の作品は≪観音≫1921年(東近美蔵)をはじめ、宗教的な題材が何点かに観られる。≪母子≫など、画家の日常生活で見られた光景から着想した作品も多い。
≪海水浴の女≫1923年からはピカソの≪アビニョンの女≫を思い出したが、私だけだろうか。

-1924年には再び作風の変化が見られる。
≪手をあぶる女≫1924年、≪卓上静物≫1925年は、キュビスム特有の幾何学形はなくなり、むしろ切絵か貼り絵のようなむしろ、ピカソの古典主義時代の作風に近いように思えた。
他にも≪室内≫など、誰もいない部屋を描いた実験的な作品もあり、そうかと思えば≪庭先≫1925年、≪花≫制作年不詳のようにマティス風の作品あり。

総じて、この時代はより一層、海外からの情報を吸収し、自己の中で咀嚼し自分の絵に転換しようと試みていたと言える。古賀は生涯を通じて、常に何者かからの剽窃をしていることが、今回の展覧会で一番印象に残った。
カメレオンはすなわち、剽窃の結果であったか。
当時の多くの画家も同様に西洋画を学習していたが、古賀ほど、様々な画家の作品を追っていた画家はいないように思う。自身が満足の行く画風をなかなか得られなかったのだろう。そういう意味では気の毒な画家だったのかもしれない。

第3章 空想は羽博き 1926-1928年
いよいよ、ここからパウル・クレーの時代が始まる。1926年頃から写生に基づく表現から空想的な要素を取り入れた世界へと転換。パウル・クレーの模写などをし、彼の画風を取り込もうとした画家の姿が浮かぶ。

・≪風景≫個人蔵 1926年
・≪美しき博覧会≫ 同タイトルの作品が全部で3点もあることは今回初めて知った。前期に展示される2点はいずれも個人蔵。残る1点石橋美術館蔵は、後期に出展される。
第3章は、1章と同じく、水彩画作品が多い。水彩は長期間の展示により退色などが起こりやすいため、展示期間は限られてくる。そのため、本展では、水彩画作品はほぼすべて前後期で展示替えとなる。

お馴染の≪煙花≫川端康成記念会、≪夏山≫愛知県美術館などにまじって、≪収穫≫、≪山ノ手風景≫など個人蔵の作品は眼福。郡山市美の≪蝸牛のいる田舎≫1928年の明るい緑いっぱいの画面は、この時代の作品の中で一番好きになった。これも初見。

ただし、これらのクレー風の作品に共通して感じるのは孤独と哀愁である。この時、既に古賀春江は自分の短い生涯を悟っていたのだろうか、それゆえの哀愁なのかと勘ぐってしまった。
この時代に古賀は多くの詩作を手がけ始め、作品横に詩とともに紹介されている作品もある。
残念ながら、先日の三重県美の北園克衛の詩ほど私には訴えるものがなかった。これはあくまで個人の好みの問題だと思っている。

1926年に描かれた≪裸婦≫や≪瓶花≫などは注文に応じて描いたのか、特に裸婦は後のシュルレアリスム風作品に通じるような硬質な肌をした女性の裸体像で、クレーのかけらもない具象画である。逆に異質な感じで目を惹いた。

第4章 新しい神話 1929-1933年
1929年に古賀は再び作風を一転させ、代表作≪海≫(東近美蔵)を完成させる。
私が古賀春江の名を知ったのは、この≪海≫を東京国立近代美術館で初めて見た時だった。私の美術館原体験と言って良い、この東近美初訪問のことを今でも忘れない。カンディンスキー展を何を思ったのか見に行って、大感激し、その興奮のまま常設に入った所、目に留まったのが古賀春江の≪海≫と岸田劉生の≪切通し≫の2点。海外作品ではクレーの≪花ひらく木をめぐる抽象≫に一目惚れ。以降この3名の画家は私の追っかけ対象となる。

さて、展示室では≪海≫と同じく古賀の代表作である≪窓外の化粧≫1930年・神奈川県立近代美術館が間は開いているものの横に並んで展示されている。この2点が同時に観られるだけでファンとしては嬉しい。

いずれも最初に観た時には、大正時代にこんな油彩を描いた画家がいたとは!と驚いた。
2点の制作の秘密が分かる関連資料も必見。これは以前、過去の図録で観ていたので知っていたが、改めて見ると油彩はコラージュの結実だったのだと分かる。
当時流行のシュルレアリスムを取り入れつつ彼自身の超現実主義理論を打ち立て、絵画にも詩にも新しい表現を求めて行ったが、病(梅毒が進行)に倒れる。

≪素朴な月夜≫1929年は長年観たいと思っていた作品についに出会えて本当に嬉しかった。幾分クレー風ではあるが、この時既にシュルレアリスム的な要素が濃い。

≪超現実を切る主智的表情≫1931年、≪音楽≫1931年、≪白い貝殻≫1932年など次々に驚くような油彩画が続く。
1933年の亡くなる2年程前がもっとも制作意欲が旺盛だったようだ。
≪孔雀≫1932年は、あっと驚くような画面構成。大きく羽を広げた孔雀の間に真っ白なうねうね道が描かれている摩訶不思議な作品。

≪深海の情景≫1933年は、真っ暗な深海に潜む不気味さを漂わせつつ、船や大きな花やタツノオトシゴ、魚などが配され、賢明な生への憧憬さへ感じるのだった。
この作品を手がけていた頃、古賀は既に脳を侵され、線は引けても字が書けなかったという。
やはり、「海」というモチーフは古賀にとって非常なる魅力的な題材出会ったに違いない。

絶筆の≪サーカス≫1933年は何ともやり切れないほどに痛々しい。
病床で、心身共に思うに任せぬままひたすらに筆を握り、キャンバスにどうやって向かい、如何にして描き上げたのか、壮絶の一作だが、画面では寂寥感と変わらぬ不思議さをたたえている。
「ぼんやりと描きたかった。」は画家の言葉であるが、芸をする虎よりもここで注視したいのは、オットセイとキリンだ。いずれも中空に浮かぶ。右上には鳥が飛ぶ。
最後の最後に来て、古賀春江の作品は宙に浮かんでいるモチーフが多いことに気付いた。宙に浮くと言えば、シャガールや有元利夫が浮かぶが、いずれとも何かが違う。古賀作品に浮かぶモチーフは、常に変化を求めてさまよう古賀の魂そのものに私には見えてならなかった。

最後の展示室では、ポスターや装幀など、古賀の才能あふれる仕事を観ることもできる。個人的には、彼の装幀画が非常に良かった。

残念ながら、2周したが読めども読めども古賀の詩は私の心には訴えて来なかったのはなぜだろう。
絵画と詩は古賀春江にとって同時進行の芸術であったのに。
何とも心残りである。

図録はA4サイズより小さめのB5版だが、関連論文5本を掲載し印刷も良い。2千円なので、遠方の方は取り寄せられても良いのではないでしょうか。

*11月23日まで開催中。なお、水彩画やデッサンなどは前後期で展示替えとなります。
前期:9月18日~10月17日、後期:10月19日~11月23日
巡回はありませんので、お見逃しなく。

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とら様

こんばんは。
第2章にお気に入り、ということはキュビスム時代の作品ですか。

キュビスム系だと私の場合、≪観音≫が一番でしょうか。
まさにカメレオンぶりを堪能した展覧会。
未見の作品が多数あって、本当に満足できました。


No title

こんにちは。日曜日に葉山までドライブしてきました。
あのように目まぐるしく変化した画風の陰に、彼の病歴が覗いているような気もしました。
個人的なお気に入りは第2章に多かったような気がします。

一村雨さま

本当に全貌を観ることができたようで、夢のようです。
古賀春江は、まさしくカメレオンのようでした。

私は、最後の最後、シュールレアリスム風の作品が一番
彼らしいように思いました。

「孔雀」は本当にびっくりでしたね。

No title

昨年、ブリジストンのうみろのいろ うみのかたちのブログコメントで、memeさんにこの展覧会が開催されると聞いて、ずっと楽しみにしていました。
本当に誰の影響を受けたか推測できる絵がたくさんありました。あまりにも変貌が激しく、とらえどころがないのですが、私はキュビズムタッチの観音なんかが大好きです。
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