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「駒井哲郎1920-1976-こころの造形物語-」 町田市立国際版画美術館

駒井哲郎


「駒井哲郎1920-1976-こころの造形物語-」 町田市立国際版画美術館 6月12日まで
http://hanga-museum.jp/exhibition/index/2011-5

駒井哲郎(1920-1976)は、私の最も好きな銅版画家の一人。
彼の作品に魅了されたのは、名古屋ボストン美術館での展覧会だった。現在も館長でいらっしゃる馬場駿吉氏は、元耳鼻咽喉科医でもあり、俳人でもある。その馬場氏が駒井の版画を購入し知遇を得、その後ご自身の処女句集「断面」(1964年)の装丁を依頼。革張りの限定50部には銅版画が埋め込まれた。
その馬場館長のコレクション約50点をもとに「駒井哲郎版画展」が名古屋ボストン美術館で開催されたのは2008年のことだった。

あれから3年。
今回は、資生堂名誉会長の福原義春氏が蒐集した約500点!という大コレクション(世田谷美術館寄託)によって、全作品総入れ替えのⅡ部構成で駒井の初期から晩年までの創造の軌跡をたどります。

この展覧会は来年、世田谷美術館に巡回するが私は町田市立国際版画美術館で観たかった。本展の巡回はここが最初なので、他の巡回先ではどうなるのか分からないが、版画専門の美術館だけあって、福原コレクションだけではなく同館所蔵の版画作品も特別出展が多数されていて、同じ版画でも刷り違いを何点も観られるのがとても良かった。この特別出展は1点2点でなく、相当数出ていたのでボリューム満点。

展示室も広くゆったり観ることができるのもポイント。また常設展示では、「西洋版画の世界―駒井哲郎の視点」と題して駒井が影響を受けた西洋版画家の作品(除くブレスダンとルドン→その前の常設で展示されたため)を合わせて展示している。これまた、版画専門だけあって、実に良い作品が揃っていた。

展示構成は次の通り。
【第Ⅰ部】1~4 章を中心に構成
第1章 銅版画への道(1935-1948 頃)
第 2 章 夢の開花(1948-1953)
第 3 章 夢の瓦解そして再生(1954-1958)
第 4 章 充実する制作:詩画集「からんどりえ」まで(1959-1960)

【第Ⅱ部 5~8 章を中心に構成
第 5 章 新たな表現を求めて(1961-1966)
第 6 章 充実の刻(1967-1970)、
第 7 章 未だ見果てぬ夢、色彩の開花(1971-1973)
第 8 章 白と黒の心象風景と乱舞する色彩(1974-1976)

500点もの作品を第1部第2部と2回にわたり観たが、個々の作品について触れるにはあまりに量が多すぎるためやめ、全体を通しての感想に留める。

版画と詩というのは、セットのように調和をなす。
なぜ、詩と合わせるのは水彩やパステル画、ドローイングでなく版画なのか。
ここに、それに対する答えになるかのような駒井の言葉があった。
「版画には、時間的、音楽的要素がある。版画制作は、一種の独善的な孤独な遊戯」だと彼は言っている。

時間的・音楽的要素、殊に後者については詩作と共通するものがある。

私が駒井哲郎の版画が好きな理由が、今回分かった。
彼が影響を受けている西洋版画家や画家がほぼ全て私の好きな版画家と画家に共通しているのだった。
初期の黒白エッチングでは、メリヨンの影響が強い。15歳の作品「滞舟」「河岸」いずれも1935年作は、15歳とは思えぬ出来栄え。「丸の内風景」1938年は既にメリヨン風で丸の内が外国のように見える。

その後も生涯、カラーを使用しないエッチャーとしての版画制作からは離れないが、1964年以後、ルドンのような色彩に憧れ多色のモノタイプにパステル粉を使用した作品や、手彩色の作品を制作し始める。
駒井がカラーの作品を制作している時は実に楽しそうだったという。
カラー作品への取り組みを開始した背景には1963年の交通事故画あると思われる。両下肢を骨折し、1年間の療養を余儀なくされた時、彼は何を思っただろう。
運良く、命拾いしたことに感謝しつつ、生ある今、やりたいことをやらねばという焦燥にかられたのではあるまいか。
駒井の多色版画は、ルドンの影響が強い花束のものが実に美しい、更に技法を凝らして、古地図に版を刷るというコラージュのような作品まで登場する。
その一方、同じく彼が好きだったクレーのような作品≪時間の玩具≫1970年など赤いハートや黄色の渦巻など、モチーフが浮遊する作品もあり、様々な海外の作家からの影響を受けているのがよく分かる。
他に、当時流行したアンフォルメルを取り入れんとしたか、ジョアン・ミロのような作品も登場する。

モノクロの銅版画といえど、駒井が使った技法は実に多様だ。
エッチングは言うまでもなく、ソフトグラント・エッチング、ドライポイント、晩年の作品では浮世絵に観られるようなエンボスも使用。
その多才な技から繰り出される版画の黒の諧調や線は実に美しく、そして詩韻のようなリズムを画面から醸し出していた。
どういう訳か、観ているだけで心打たれる作品の数々。
そこには孤独な一人の版画家の精神が端々に表出されていたのだと思う。

舌ガンが発見され、いよいよ死を意識した時、彼の最後の作品が≪帽子とビン≫1975年の銅版画だったことに深い感慨を覚えた。
愛用の帽子は、作品の傍に一緒に展示されている。
デッサンの時にいつもかぶっていたのか、頭頂部の部分に汚れがあるけれど、愛着を持っていたであろうことは見れば分かる。その帽子と瓶の取り合わせ。
これ程、静謐な画面はあろうか。

療養中に舌ガン治療のため顎の骨を削っても制作は続いていた。自身の横顔をもとに制作したと思われる≪岩礁≫1975年、そして、色彩へのあこがれもやまず≪Fruits≫1975年(多色、手彩色パステル)と果物を記号化したような黒をベースにした作品も手掛けた。
駒井は、もう少し長く生きていたのなら、憧れていたルドンのように油彩やパステル画を始めたに違いない。
数点だが、版画でなくグアッシュや鉛筆で描いたドローイングも展示されていたが、それはそれとして味わいがあった。この先をもっともっと観たい版画家であり、56歳の早すぎる死が惜しまれる。

駒井の人生を駆けた制作活動を追う素晴らしい内容でした。

下記の通り本展は巡回します。
山口県立萩美術館・浦上記念館 2011年7月5日(火)~8月7日(日)
伊丹市立美術館 2011年10月 29 日(土)~12月18日(日)
郡山市立美術館        2012年1月5 日(木)~2月12日(日)
新潟市美術館   2012年2月18日(土)~4月15日(日)
世田谷美術館   2012年4月28日(土)~7月1日(日)

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