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「松本俊夫の世界 白昼夢」展 町立久万美術館

気がつけば季節は晩秋。11月も半ばになろうとしています。
9月にひとつ記事をあげ、続きを思わせておきながら結局書かずじまいの体たらく。

そんな状況下、記事を書こう、書きたいと思わせてくれる展覧会に出会いました。
町立久万美術館で11月17日(土曜日までなのでお間違いなく!)まで開催中の映像作家「松本俊夫の世界 白昼夢」展を見に愛媛県まで出かけてきました。

あちこち出歩いてはあるいものの愛媛県は未訪の地のひとつでした。
今回の旅は久万美術館と高知県立美術館で開催中の大絵金展を見るために高知→愛媛の旅を企画しました。

久万美術館の存在は、2009年に同館で開催された「– 歸去來兮(かへりなんいざ)-」に出展されていた写真家の高橋あいさんの東京芸大先端芸術科修了制作展でした。高橋さんの久万の風景と町の子供たちを撮影した写真に惹かれ、受付にあった図録を買い求めました。この写真展には高橋さんの他に萱原里砂さん、笹岡啓子さんの女性写真家3名が出展。その後、私が写真に関心を強く持ち始めるきっかけのひとつとなり宝物の図録(現在完売)です。
3名の方の写真で見る久万の景色はそれぞれに美しく違った表情を見せていました。いつか、久万美術館に行ってみたい、図録を見ながらそう思っていました。

そして今回の松本俊夫展の開催。
同館では1989年の開館以来、年1回の自主企画展を開催しています。前述の「– 歸去來兮(かへりなんいざ)-」もそのひとつでした。久万美術館の詳細については同館の公式サイトに詳しいのでぜひそちらをご覧ください。
町立久万美術館公式サイト:http://www.kumakogen.jp/culture/muse/
山に抱かれた高台にある杉や檜、漆喰を使った最高に居心地の良い美術館です。私がこれまで訪れた美術館の中でも居心地の良さはベスト5に入ります。展示室も予想していたより広く驚きました。

この山間の美術館で前衛映像作家の松本俊夫展開催が、同館にとって大きなチャレンジであったことは想像に難くありません。しかし、この展覧会は私に心躍る体験を与えてくれました。朝9時半の開館から17時の閉館まで滞在していましたが、それでも見切れない松本の映像作品、手書き原稿や映像作成のための絵コンテ、シナリオ、スコアなど貴重な資料がわんさと出ていて、松本俊夫を知らずとも誰でも心に残る作品がひとつは見つけられたのではないかと思います。ひとりでも多くの人々に松本俊夫の名前と映像が刻まれれば展覧会は大成功だと言えるのではないでしょうか。

私自身、松本俊夫の名前を認識してまだ1年も経過していないと思います。
今年の4月だったか愛知芸術文化センターで実験映画特集が開催され、その中の1日が松本俊夫特集だったのですが、平日の夜開催であったこと、異動したばかりだったことが重なり会場に行くことができませんでした。同じく芸文センター主催の「はじめてアート講座」のひとコマに「実験映画」紹介があり、確かそこで2本の短編を見たのが初めて松本作品に接した機会ではなかったかと記憶しています。

そして漸く本展開催を知り、松本俊夫の全貌を知る絶好のチャンス!しかも開催館はあの久万美術館!!!
見事にその期待に応えてくれる素晴らしい展覧会でした。
展示室単位に「虚」、「想」、「偽」、「覗」、「罠」の5つのテーマを設け、テーマに沿った映像36本と関連資料を紹介。長尺、短編と様々ですが、Twitterを通じて全部見たらどれだけ時間がかかるかを確認しましたが、まる2日で何とか全部というレベルですからすごい。これが入館料800円で見放題、2回目からはリピーター割引もあり、もう1日腰を据えて見ても良かったかなぁと今更後悔しています。
大画面を使用した映像プロジェクションは普段、日本画の展示で使用されていると思しきガラスケースの奥をスクリーンに仕立てていたりと展示の工夫が凝らされていますが、2つの大きな鏡を使用したプロジェクションは二重に正面スクリーンだけでなく展示室仕切り壁にも映像が投影され、空間全体に迫力を与え見応え充分!この展示方法に即した映像作品が選択されているのは言うまでもないでしょう。
展覧会風景は、本展Twitterアカウント:@MatsumotoToshio さんのつぶやきが非常に充実しています。
そのつぶやきがTogetterでまとめられていますので、ぜひご参照ください。→ http://togetter.com/li/405161

テーマが漢字一文字になっているのは、松本作品の「色即是空」から採用したと思われますが、彼の作品にマッチしています。1本見ただけでは1文字テーマとの関連性を理解するのに厳しいですが何本も見ていくと、言わんとするところ、テーマ単位の作品の共通性が朧げながら見えてきました。

展示作品をすべて見られなかったので、見ることができた作品の中で特に印象深かったのは「銀輪」、「わたしはナイロン」、「白い長い線の記録」、「色即是空」、「つぶれかかった右眼のために」。
特に「銀輪」は美術面で実験工房の山口勝弘、北代省三が担当、特撮はあの円谷英二、音楽は武満徹+黛 敏郎と超豪華な布陣で自転車の海外宣伝映画として1956年に制作された。メルヘンチックなオープニングからラストまで幻想的なストーリーと特殊技術による画面は圧巻としか言いようがありません。砂丘を舞台にしているシーンは、植田正治の砂丘シリーズを彷彿とさせます。更に拍車がかかったのは「わたしはナイロン」で山口勝弘のオブジェや湯浅譲二作曲のジャズをBGMに使用した見事なまでに前衛の東洋レーヨンのナイロン宣伝映画でした。こうした50年代〜60年代に制作されたPR映画の随所に実験精神にあふれ、「わたしはナイロン」に至っては試写の後、2006年の川崎市民ミュージアムで開催された松本俊夫展で上映されるまでお蔵入りしていたのも頷けます。

そうかと思えば、ガチな記録映画も撮影されていたりと八面六臂の活躍ぶり奮闘ぶりがあまたの作品を見ていく中で強烈に体感できます。江口浩氏(川崎市民ミュージアム)の図録論考「松本俊夫、その限りなき挑戦」によれば、「糊口をしのぐために引き受けた”芸のない¨仕事について冷淡」だというが、果たして客観的評価はどうなのかは気になるところです。

松本俊夫さんは高校生の頃には絵描きになりたかったそうですが、ご両親の反対もあり精神医学を学ぶために一旦は当時の東大理二(医学部)に入学するものの、美術を諦めきれず内緒で文学部美術史学科に転学。高校生の頃に描いたセザンヌばりの油彩も残っているそうで、残念ながら展覧会には出展されていませんが絵コンテからも絵達者であることは伺われます。

最新作の「蟷螂の斧」はオムニバス映画3部作で、松本俊夫は構成を手がけています。
渋谷のイメージフォーラムで第二部第三部と松本氏ご本人のトークを、第一部は久万美術館で見ましたが、第一部→第二部→第三部とオムニバスでもどんどん複雑な構成へと推移。

以下、イメージフォーラムでの本作についての松本氏コメント(青字箇所)をメモできた限りで記載します。

各作家の作品が解体、取り替えられたりし、関係が変化する。
足し算でなくもっと複雑な関係が生み出されるように作った。
三部はひとつの大きなかたまりになっていく。

第一部はオーソドックスだが、順番を変えると別の作品になるように。
これらの相違を見終わった後に考えて欲しい。

作りながら出て来る問題を深める。関係の構成が生み出す世界。要素としては異質なもの。
だからお互いが相互作用し膨らんで行く。
構成というタイトルで自分を位置付けした。同種の作品に「石の詩」があった。
アーネスト佐藤の写真で庵治石の石工を中心に撮った写真が前提に話が出た。
写真をもとに映像制作を試みたがうまくいかなかったので自分に手伝いの依頼が来た。
自分以外のものとの格闘は面白い経験だった。

他の作家とは違う個性に価値がある。それを立ち上がらせることが大切。
理念の純化、理想化によりアウラを帯びる。
ひとつの探求が共同作業により、他なるものとの組み替え組み合わせが何を生み出すか分からないという一端が、この作品にみられる。

問い:「震災後の変化は?」
人類の文化のあり方を問われると思った。
素材を取り上げるだけでなく、人間の根源的なものを考える。これが避けられない。
見終わった後に何を言おうとしたのか、ある意味で危機的に膨らませる作り方をしてみた。
記憶がいま見ている作品に影響する。


これからも良い作品をひとつでも多く残してくださることを切に願います。

本展とあわせて5点ほど久万美術館所蔵品も会場に展示されています。村山槐多のコレクションはつとに著名で近年開催された村山槐多展にも出展されその存在を知っていましたが、それだけではありません。
海老原喜之助「2人の女」、浅井忠など国内近代洋画の名品に思わず「すごい」と声が出た程。
海老原や村山槐多の作品と並んで松本俊夫の「モナ・リザ」「アンディ・ウォーホル=複々製」が額縁を使って展示される様はかなりシュールな光景で忘れられません。

なお、本展図録(2500円)も優れもの。7本の批評家、映像研究者らによる論考は松本作品を様々な角度から評し分析しています。各作品のスチール写真の掲載も多く、作品リスト、同時代の主要な出来事(特に映像関連のものを掲載しているのが嬉しい)付き年表と充実。装幀デザインもスタイリッシュです。美術館で通信販売または東京のナディッフでも取り扱っています。早晩に完売必至と思われますのでお早めに。
美術館の展覧会図録通信販売 → http://www.kumakogen.jp/culture/muse/book.html

今後も久万美術館での熱い自主企画展の開催を心待ちにしています。そして、次回もきっと新たな体験を供してくれるに違いないと信じています。

帰路、山を下って行く途中に見た眼下の景色は吸い込まれそうな程美しく、靄に包まれた久万美術館と松本俊夫展はまさに「白日夢」そのものでした。
展覧会関係各位の皆様には心より感謝申し上げます。

*11月13日加筆

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遊行七重さま

こんばんは。
今回はドグラマグラなどの長ものはさすがに時間がなく見られませんでした。
ドグラ・マグラは手書きの生原稿の展示や当時の映画ポスターなどが展示されていて萌えました。
DVDレンタルがないか探してみようと思います。
朝一番に行ったらおじいさん、おばあさんの団体さんが「修羅」の展示で喧々諤々していて
そんな雰囲気もまた楽しかったです。

ブログようやく復活できそうです。
そんなタイミングのコメントありがとう!!!嬉しかったです。

No title

こんにちは
松本俊夫は「ドグラマグラ」でめちゃくちゃ熱狂しました。89年か90年でしたかな、あの当時「薔薇の葬列」や他の作品をよく上映会やレンタルで見たりしましたよ。
今でも「ドグラマグラ」はめちゃくちゃ好きです。今回「ぶるっ」にも彼の映像が二本出てましたが、あまりに実験性が高いものはちょっと苦手ですが、やはり凄い映像作家だと思います。
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