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奥村雄樹「善兵衛の目玉(宇宙編)」 愛知県美術館

愛知県美術館 APMoA Project, ARCHの奥村雄樹「善兵衛の目玉(宇宙編)」は、実際の落語を用いた映像作品(約22分)。元々、この作品のオリジナルは2010年にMISAKO&ROSENギャラリーで行われた「くうそうかいぼうがく(落語編)」で、これに大阪の在野の天文学者・岩橋善兵衛の物語の要素を加えた作品が上映されている。岩橋善兵衛は実在の人物で江戸時代(1793年頃)日本一優れた望遠鏡を作った人物で、大阪・貝塚市には貝塚市立善兵衛ランドという生涯学習施設がある。詳細:こちら。本作品の落語上演も善兵衛ランドで行われ、映像作品に内部の様子も撮影されている。

オリジナルの「くうそうかいぼうがく」はタイトルから分かるように解剖、身体への作家の関心から制作され、落語編とは別にワークショップ「くうそうかいぼうがく」もしばしば各地で行われている。愛知県でも、本展関連イベントとしてアートラボあいちで開催された。注:私自身もかつて宮本三郎記念館でのWSに参加。

本作のため奥村は、自身がかつて強いインパクトを受けた「まんが日本昔話」シリーズの「善兵衛ばなし」を元に創作落語の制作と上演を落語家・笑福亭里光に依頼。奥村が創作落語を作ったのではなく依頼したのであり、落語そのものを作り、演じているのは里光氏であるのは他作品にも通じる興味深い点だろう。依頼から落語上演に至るやりとりは、落語の枕で里光氏の口から面白おかしく語られる。この枕も注意を要す。枕は、奥村雄樹からEメールが里光氏に届いた所から始まるが、メールの差出人が「YUKI OKUMURA」と表記されていたため、YUKI=ゆきと勘違いし女性だと思ったと続く。

解剖、身体へのアプローチとは別に、奥村が近年重視しているのは字幕、翻訳、通訳の仕事で、彼はアーティストの作品やトークにおいてこれらの仕事を手がけている。既に終了したが、東京都現代美術館で開催された「風が吹けば桶屋が儲かる」展では、奥村以外のアーティスト(ジュン・ヤン、田中功起、ライアン・ガンダー、サイモン・フジワラ)の映像作品で英語字幕を手がけ、これらが奥村の作品として展示されていた。
作為の有無を判断できないが、枕で使われる英語表記の誤読や音声で語られる雄樹、ゆきの差異により、奥村の姿こそ見えないが(落語上演前の紹介で作家は少しだけ登場)、存在は鑑賞者に意識される。東京芸大で行われたジュン・ヤンのトークでも名前の誤読について語られていたのは偶然かもしれないが興味深い一致だと思う。

善兵衛の目玉(宇宙編)では、「善兵衛の目玉」の視覚冒険、経験が、映像鑑賞する中で鑑賞者自身の体験へといつの間にかすり替わる。「善兵衛の目玉」は自分の目なのか、どこにあるのかというような映像と実在空間との境界が曖昧になり錯綜する。落語の中では「善兵衛の目玉」は胃カメラ同様、患者の体内へ入りこみ、肛門から飛び出すのであるが、鑑賞者はそれを聞きつつ、あるいは字幕を見つつ、自身の体内を脳内に思い描く。「くうそうかいぼうがく」WSと同等の体験を得ることになる。落語家が鑑賞者に憑依したような感覚とも言えよう。

「くうそうかいぼうがく(落語編)」と異なるのは、善兵衛が江戸時代に作った望遠鏡が冒頭に、ラストシーンでは現代の巨大天体望遠鏡が宇宙を覗く姿が映し出され、「(宇宙編)」では、更に複雑な様相が提示される。映像だけでなく、善兵衛の作った望遠鏡が愛知県美術館の展示室廊下に展示されており、これは実際に覗くことができ、覗いた先には常設に展示中の片岡球子の画中の円窓(円窓というレンズを彷彿とさせる所にたどり着くのが心憎い)に行き着く。
人間の目だけでなくカメラアイという言葉があるように望遠鏡のレンズは言うに及ばず、本作には落語上演後の観客の様子やスタッフの姿が捉えられていて、中に落語の撮影に使用されたビデオカメラを別のカメラが入り込む。鑑賞者が見ている映像そのものを捉えるカメラの姿は目には見えないが次第に意識の端にのぼる。

一体、この作品にはいくつの目・視点があるのか。
実在の人物:岩橋善兵衛の登場により、視覚の入れ子は更に複雑な入れ子状態を生み出し、江戸時代と現在、映像と展示空間、目玉の空間移動といった時間と場所の交差が織り込まれる。

もうひとつ、展示期間最初には間に合わなかった英語字幕が本作品には付加されているが、この字幕も奥村自身が手がけたもの。英語字幕と落語の語りの差異(ズレ)は時に作家の意図的なものも含まれているので、可能であれば注視すると良い。特に落語の最後のオチには誰でも知っている英単語が使われていて、これと本作タイトル宇宙との関連を見るとより作品が、作家の意図が伝わってくる。

ところで、善兵衛の目玉は患者の肛門を抜け出た後どこに行ったのだろう。存外、私自身の目がそれではないかと思ってしまった。

落語:笑福亭里光、撮影:藤井光(藤井氏は映像作家としても活躍中)、英語字幕・映像編集:奥村雄樹
2月11日まで。

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